<< シメサバとタケムラくん ABT「ドンキホーテ」ミハイル... >>

Le lac des cygnes ~型の中で表現することの難しさ~

f0008907_5335585.jpg

左からステファン・ビュリオン(ロットバルト)、エミリー・コゼット(オデット/オディール)、ジョゼ・マルティネス(ジークフリード王子)


年末年始、ツーリストの多いこの時期はガルニエとバスティーユ二本立てでフル稼働のオペラ座。
ただでさえチケットが取りづらいこの時期、必ず二つのうち一つは有名なクラシック作品を持ってくるから、チケットの入手ときたらほんと困難、苦労が多い。今年はガルニエでコンテンポラリー「バランシン/ブラウン/バウシュ」、バスティーユでクラシックの王道「白鳥の湖」となった。


さて、バスティーユ「白鳥の湖」。3度見たが、おそらく古典作品の中でもっとも体力的にもテクニック的にもきつい作品ということで、怪我人続出でキャストの変更が多く、3度ともオデット/オディールがエミリー・コゼット、というハメになってしまった。王子はジョゼ・マルティネスが2回、ステファン・ビュリオンが1回。ウォルフガング/ロットバルトにステファンが2回、カール・パケットが1回。

今回特筆すべきは、ステファン・ビュリオンのウォルフガング/ロットバルトだろう。王子ジークフリードを演じるジョゼとのコンビが印象的だった。1幕では王子を指導する家庭教師ウォルフガングとして、その謎めいた雰囲気を怪しい美しさ・色気で十分に表現した。王子を導きながら、こうするんだよ、と踊りを教える場面、男性二人の踊りになぜかゾクゾク。オペラ座の誇るダンスノーブルであるジョゼと並ぶとなんと絵になることか!

そしてロットバルトとしての演技。悪役がこれだけ美しいと、王子の美しさも倍増するというものである。美しさばかりを書いてしまったが、踊りもロットバルトらしいアク、ヴァリアシオンには若さゆえのキレがあり、キャラクターダンサーとしての彼は存在感たっぷり。本当に素晴らしい配役だった。

さて、しかしこれが、型の中で表現することの困難さ、というテーマについて考えるきっかけになったのだった。

というのも、後日、ステファンはコゼットと組み今度はジークフリードを踊ったのだが、一転、なんと存在感の薄かったこと。少し前のアニエスにも感じていたのだけれど、古典の型をリスペクトしようとすると、表現にブレーキがかかってしまうダンサーがいる。とりわけ、ダンスノーブルがその型を守りつつ、やりすぎない形で、でも感情を表現する、この難しさったらないと思う。やろうとして型が崩れる、あるいはノーブルさを失う、そういったダンサーは多い。話はそれるが、その意味においてエルヴェ・モローがすごいと思うのは、軽々とその「型」と「表現すること」をバランスよく、端正さを失わずに、自在に操ること。あんなパッションを、決められた型を通して観客に伝えられる才能。


■古典中の古典、白鳥を”踊る”とはどういうことか。■

そこには究極の引き算がなくてはだめだ。白鳥は腕をバタバタ羽のように動かすわけだが、それでいてその動きは、ある種日本舞踊のように、無駄なものがすべてそぎ落とされたものでなくてはならない。そこに白鳥の気品があらわれるのだと私は思っている。その意味でコゼットの動きにはまだ無駄が多すぎて、見ていて疲れる。

究極にいえば気品だけが重要なこの作品、王子を演じるのはおそらくもっと難しいのではないかと今回思った。これは他の超古典にも言えるけれど、こういった作品の中では、出てきただけでその人は王子だと説得させる何かがなくてはいけない。ダンスノーブルとは、その体のライン、身のこなし、顔、そのすべてから、現れたその瞬間に王子でなくてはならないのだ。その意味で、ステファン(ビュリオン)は、その器ではなかったと思う。相当なボーギャルソン、ほかの演目ではキャーキャー言ってたほどかっこいいと思っていたが残念である。その意味で、ジョゼ・マルティネス、エルヴェ・モロー、マチュー・ガニオなど、踊りについての議論は置いておいても姿形だけで最低限王子であることの説得力を持った存在は、古典作品において貴重な存在だと言える。

ステファン・ビュリオン&エミリー・コゼットの組、4幕に至るまではオデット・オディールとの間に感情のやり取りがあるようには観客の私には伝わってこなかった。コゼットもビュリオンも勝手に自分のパートを踊る・・・演劇で言えば相手を見ずに自分のセリフを勝手にしゃべっていた感じだったのだ。あの美しい2幕の出会いの場面では必ず泣かせてほしかったのに、非常に残念な舞台であった。


他の配役では、ロットバルトを踊ったカール・パケットに言及すべきだろう。キャラクターでの彼は本当に安定していて素晴らしく、非常に私は評価しているのだが、なんだか今回ビュリオンのロットバルトの怪しい輝きが脳裏に焼き付きすぎて、彼の踊りは及第点程度に見えてしまった。

他にも、スペインの踊りでオペラ座の誇るコールドのボーギャルソンの筆頭二人、オードリックとフロリアンがスリムで長身な身体を存分に生かしキレと存在感抜群の踊りを披露していたこと、女性陣もエヴとサラコヤというお色気二人組がエスプリの効いたスペインの踊りを披露していたこと。ナポリの踊りのミリアムも可愛らしかったが、白鳥を踊らせたっていいような彼女をこの踊りで見るのは辛い。

そして何より、以前よりも格段に今年の白鳥のコールドの良かったこと!2幕の湖の場面に始まり4幕まで、本当によく揃った美しい白鳥たちであった。

最後に、大好きなジョゼについて。
さんざん上でダンス・ノーブルについて語ったが、出てきただけで「私は王子です」というストーリーを語れる説得力のあるそのノーブルさ。身体、踊り。スペイン国立バレエ団のディレクター就任のニュースが出た直後で、これが最後のジークフリードか、と泣きながら見た。そして、あまり私はこれをやるのが好きでないのだが、思い切って楽屋口まで行き、アデューについてたずねてみた。
そして得た嬉しいニュース!来シーズンもスペインと行ったりきたりしながら踊るというのだ!

まだジョゼが見られるという幸せ。引退年齢に達するまでその魅力をたっぷりと観客に振りまいてほしい。
[PR]
by chihiroparis | 2011-01-10 05:34 | ballet+danse | Comments(0)
名前
URL
画像認証
削除用パスワード
<< シメサバとタケムラくん ABT「ドンキホーテ」ミハイル... >>