Noism「カルメン」- Carmen by Noism

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金森穣率いるNoismによる「Carmen」。

ストーリーにというよりはダンサーの身体性に圧倒され、最後の方わけもわからず涙が溢れる。
終演後はしばらく呆然として椅子から立ち上がれないほどだった。是非欧州で紹介されるべき、と強く思う作品。

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Noismを観たのは旗揚げ後のパリ日本文化会館での公演を観て以来だったので、かなり久々。
あの時は金森穣というダンサーの才能が他のダンサーより突出しすぎていて、その振付の才能に、新しい時代が日本の舞踊界に来るんだ、という期待に胸高まりつつも同時に、彼の思う舞踊をいったい誰が具現して行くんだろう、とも思ったのだった。

久しぶりに観て、そして彼自身が出演していない舞台を観て、これがルードラでベジャールと、NDTでキリアンと、リヨンでエクをはじめとした先進的振付家たちと・・・欧州の第一線の舞踊界に触れて来た金森穣がその後その経験をもとに日本人の身体性と本気で向き合った結果なんだと思うと、感動で泣けてきた。
確かにエクの影響は言語的にも構成的にもすごく大きいと思ったし、フォーサイスが使ってる手法など欧州コンテンポラリーの現在の影響があちらこちらに散見されたけれども、それは真似事ではなくて、彼の中で完全に消化されて彼自身の言語や舞台構成として生きていると感じた

日本人の身体性と真摯に向き合って、と最初に書いたのはそこで、影響を自分のものにし真似事になっていないのはダンサーたちの身体と日々向き合って作ったものだからだろうと思う。劇場付き、カンパニーつきの振付家だからこういうことができたのかなと。

ダンサーでは主役カルメンを演じた井関佐和子が突出している。アジア人女性が恋愛ものを演じると多くの場合おそらくはその身体や表情の特徴から意図せずして女の哀しみのようなものが出てしまい、男性を圧倒するような女性を演じることはとりわけ難しいと常々感じているが、圧倒的なファム・ファタルを演じていて驚いた。

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オペラや既存のバレエ作品が原作の一部であるホセとカルメンの恋愛に焦点をあてて脚色されているのと違い、この作品は原作の世界観を描いている。すなわち、当時の南スペインの下層社会で生きる人々、そしてそれに関わる「よそ者」たち。オペラやバレエで馴染んでいるカルメンよりも、もっと土臭く、荒々しく、そして誰もが痛々しいほどに必死に生きている。
日本人の身体性と向き合った、と書いたけどこれはでも同時に不思議なほど普遍性を持っている作品。

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一つだけ私が受け入れられなかったのは、その、「よそ者」の目、を描くために取り入れた演劇の手法、つまり役者のナレーションを入れたことだった。そのセリフ回しが私の中にある演劇体験と重なってしまい、記号としてそれらの記憶が呼び覚まされて、凡庸なイメージを抱いてしまった。役者が声を張りあげれば張り上げるほど興ざめしてしまう、そのことは金森氏の舞踊言語に魅惑され同時に普遍性を感じるのとはまったく違うベクトルだった(私の中での受け止め方が)。アフタートークで金森氏は演劇界から影響を受けたと実際口にしていたし、無声映画の浪曲師のようなセリフ回しは日本的な様式美でもあり使いたかったのだろうが、声はダンサーが時折発する奇声だけでよかったのではないかと感じた。話をわかりやすくと思ったのかもだし、内と外、という構造において、ストーリーの外にいる者の目、を表現したかったのだろうけど、そこは見る側の想像に委ねてはだめだったのか。もっと「行間」があったほうが面白かったのではないか、と私は感じる。
あるいは、既存の演劇との記号性を取り払うべく、声を演劇的に張り上げず、マイクを使ってでも「語り」の形にするのではダメだったのだろうか、などいろいろと想像して考えた。それもこれも、彼の舞踊言語があまりに魅力的だったためにそのものだけを邪魔されずにもっと堪能したいと思ったからである。

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とにかくあと五回くらい連続で観たいと久々に思うような作品。
それから、これはぜひ他のカンパニーでも観たい。観ながらすぐにパリ・オペラ座や、彼の出身のリヨンオペラ座だったらどう踊るだろう!と想像してワクワクしたし、新国立劇場バレエもこういうものを演じることで広がる幅があるのでは。
そうやってカンパニーって伸びて行くのだと思う。
そこではまたきっと、金森氏がNoismで向き合ったものとは違う身体性と向き合うことになるが、きっとそれがNoismによるこの作品の上演にも何かをもたらすのでは。ピナ・バウシュ、キリアン、エク、ベジャール・・・偉大な振付家たちの作品と彼らのディレクションするカンパニーがそうやって発展してきたように。


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by chihiroparis | 2014-06-28 02:53 | ballet+danse | Comments(0)

主にバレエ評


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