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L’Opéra de Jean-Stephane Bron (オペラ座ドキュメンタリー映画)


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オペラ座は映画監督の興味を引きつけて止まないところらしい。また新しいドキュメンタリー映画が。
Jean-Stephane BronのL’Opéra。

ワイズマンのLa Danseが好きな人はきっと好きだと思う。しかし視線の温度はかなり違う。ワイズマンはかなり近い距離にいながら傍観者かのように冷静に撮り続けることでダンサーたちのひたすら続く努力と苦しみ、そして喜びを描き出していたが、ブロンの本作はちょっとオペラ座プロモーションのようなところがあって、大変な場面よりはいいとこどりみたいなものではある。ああでもこの人オペラ座が好きなんだな、素材として選んだんじゃないんだな、と思わせる温かみのある視点。撮り方は全然違うけれどそういう意味ではイヨネスコに似ているのかも。

バレエはほとんど出てこないけどオペラの裏舞台とディレクション周りが実に面白い。
この映画を見てリスネールは本当に芸術を愛するディレクターなんだなと感じた。立場上厳しい決断もするけどそれもよりよい劇場づくりのためなのだと。ミルピエの降板は彼が決断させたのだとわかる。しかしその後でミルピエの作品 La nuit s’achève を客席から目を細めて実に嬉しそうに観ている姿、そしてその後、すごくよかった、よくやった、とミルピエに声かけている姿。バレエ監督としては退任させるに至ったけれども、振付家としてのミルピエを心から評価する、芸術を愛する彼を見たようですごくいい場面だった。

ちなみにLa nuit s’achève はミルピエの作品では唯一好きな作品なので再演してほしい。

映画中、この作品のリハーサルと舞台で踊るエルヴェ・モローの姿が映されている。大エトワールなのにほとんど映像が残っていないエルヴェの踊る姿がこの作品で少しでも残ったのは良かったと思う。

映画の中ではアカデミー付きの若手歌手Mikhail Timodchenkoに焦点が当たっていて、彼がパリに着いてからアカデミーで成長していく様子が描かれる。大先輩が舞台で歌う姿を袖で瞬きもせず見ている姿が非常に印象的だった。食い入るように見るとはまさにこのこと。学びとりたい、というものすごい強い気持ちが伝わってきた。

映画では開かれたオペラ座、というのがキーワードなのか、リスネールがチケット代のことで会議で発言している場面とLe concert des petits vilolons(バンリューの子に音楽体験をオペラ座でしてもらう企画)とを交差させている。
子供たちが帰るときにすれ違うお掃除の黒人女性に向けられたカメラが監督の一言か。

そうそう、面白かったのでメモ。オペラの場面で「Ce n'est pas le concert!!」コンサートじゃないんだよ、これはオペラなんだ、と言って演出家と歌手が、どこを向いて歌うかということでもめている場面があるのだけれども(演出家は、お客の方を向きすぎるな、と主張する)、ちょうどこれを見たあとに今年のWorld Ballet Dayの動画見ていたらHouston BalletでのマクミランのMayerlingのリハーサル場面で同じことを演出が言っていて。作品の中を生きろ、マクミラン作品では、観客は確かにそこにいるんだけど、作品の中の一員のようにして舞台を見ているんだ、Hi Mom!みたいな感じで客席に向かってポーズとって踊っちゃだめだ、登場人物間でインタラクションを、というようなことを言っていたのが興味深かった。この点が実に上手いのはロイヤルとシュツットガルトだなぁと思う。オペラ座では外部から来てコンクールが経験の中心だったダンサーで客席の方を向きすぎる人がいるのが非常に気になっていて、演劇の中に生きてないなぁと思う。オレリー・デュポンも似たような文脈で話していたけれども、学校やコールドで何年も経験を積むことはソリストへの道として非常に重要なのだ。コンクールに出ることが育成の中心に置かれている日本のバレエエリートの世界では演劇性は育てられていない。

日本では12月公開。


by chihiroparis | 2017-10-07 22:24 | cinema

主にバレエ評


by chihiroparis