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Roméo et Juliette, Angelin Preljocaj

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シャイヨでプレルジョカージュのロミオとジュリエット最終日に滑り込み。ノエルなのに完売満席なのもわかる、他のどの版にも似ない唯一無二の素晴らしい作品だった。最近の彼の作品は好きではないのどけど、これはル・パルクよりさらに遡ること1990年作と聞いてぜひ観たかった作品。初演時はリヨンオペラ座バレエのために振り付けたものを1996年、自身のカンパニーを持ってからかなり作り変えたとか。
プレルジョカージュによれば、原作は2家族に階級差がないのだが、本作では政治社会的コンテクストの強いものとし、その中での2家族の対立をしっかり描きたかったとのことから、ジュリエットを独裁者の娘、ロミオをホームレスとした、とのこと。独裁者とはチャウセスクをイメージした、とのことだが、これは彼がアルバニア系フランス人であることからこの作品を作った90年の東欧の状況が大きく影響しているだろう。しかし現在この作品を見たときに私が感じたのは、その設定よりもイスラエル・パレスチナ問題を強く想起させた。舞台美術に印象的に壁が使われていたこと、兵士と対立するマキューシオがアラブ系のダンサーを使っていたことからかもしれないが、それだけ現代の観客にも訴える力のある普遍的な問題提議を持った作品だということだろう。
舞台美術や衣装から受ける全体の印象が非常にフランスのBD的なのが斬新で、村の女性の服は銀河鉄道999のメーテルみたいだし、兵士やティボルト(彼が独裁者という設定)は完全にBDの実写版という感じ。調べてみたら舞台美術・衣装を担当したEnki BilalはBD作家でもあるとのこと。
彼の振付の特徴としては全篇とにかく「踊り」であるということ。どういうことかというと、プレルジョカージュがインタビューで曰く「他の版はパントマイムが多いと思う。私は振付家としてダンスにこだわりたいし身体でストーリーを語ることに興味がある。ダンサーは死の場面すらダンスと動きによってドラマトゥルギーを生きるのだ」という。その通り、演劇的マイムが極力排されあくまでダンスで表現される、動で表現される死。
見せ場の一つ、いわゆるバルコニーの場面は、性行為を想像させる激しいもので、他のバレエでは時代設定が中世に置かれ、淡いながらも強く惹かれ合う10代の若者の恋、と描かれているところ、現代であればこんなものかなと説得力があり。ジュリエットの衣装が透け感のある白い布の短パンとビスチェにシャツを羽織っているのだが、これに舞台袖から横向きの照明を当てて布が透けさせることで、舞台美術に用意することなく月明りの下にいることをイメージさせていたところが印象的だった。
死の場面は先ほどの彼の語りにあるようにパントマイムが排されダンスで激しく悲しみが表現される。圧巻の最後に涙。全体的に身体表現の面白さを再発見させてくれる名作だと思った。最近の作品とは全然毛色が違うものだが再演しようと思った経緯がぜひ聞きたいところ。
終演後劇場の人がカウンターに山積みのクレマンティーヌとショコラを「みなさん取って行ってね〜 Joyeux Noel!!」としてくれていてNoelの夜の公演を見に来たお客さんへの温かい心遣いに嬉しくなった。
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by chihiroparis | 2017-01-13 17:38 | ballet+danse

主にバレエ評


by chihiroparis