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「愛と精霊の家」Noism0 @新潟りゅーとぴあ

Noismも定期的に見ている。私が日本のカンパニーでもっとも興味を持っているカンパニー。欧州のトップカンパニーでネオクラシック寄りコンテンポラリーの今や巨匠と呼ばれる人たちのもとで一線で活躍した金森穣氏が、その体験を日本の身体にきちんと置き換えた上で、新しいものへ挑戦する姿勢での創作はいつも目が離せない。
2016年10月Noism0による「愛と精霊の家」。
見たい見たいと思いつつなかなか上演がないため本拠地新潟りゅーとぴあまで見に行くことに。
Noism0は井関佐和子、山田勇気というNoismメンバーに、ディレクターの金森穣、ゲストの元NDT小尻健太、演劇ゲストで良く出ているSPACの奥野晃士、の五人によるユニット。
作品は金森穣と井関佐和子によるプライベートユニット、unit-Cyanが発表した「シアンの家」を基に愛と死がテーマの作品。男性4人は男の愛の多面性を、女性(井関)は人形・舞踊家・妻・母になれぬ女を演じ、女の愛の孤独を象徴するとのこと。
舞台美術は赤いカーペット敷きに椅子やテーブル、トルソー、鏡など。照明が上から降りる仕組みが終盤でもっとも効果的に使われる。映像や鏡を使って世界を様々に挿入しながら話は進む。

冒頭ソロで久々に見る金森さんの踊り、相変わらずのカリスマ性が健在で嬉しい。出てくるだけで華のある人。
でもなんと言ってもこの作品の見せ場は後半小尻さんと井関さんのデュエット。「二人の間の愛が」なんて書くと、陳腐な言葉であの場面を傷つけてはいけないという気持ちになる。二人の間に溢れ出すものが伝わって来て終盤までボロ泣き。
小尻さんはNDT時代何度かパリ公演で見たけれど、たまたまキリアンの割と無機質な作品で見ていたので、ストーリー性のあるこの作品で見て見て、ものすごい色気が溢れていることに驚く驚く。井関さんへの愛おしい気持ちが身体から、動きから、溢れている。この人をもっとロマンチックな作品でたくさん見たい。
昔インタビューで井関さんが、穣さんのレベルに達するのにすごく苦しい想いをしたことを吐露していたけれども、今Noismの表現を背負って立つ井関さんの踊りに対峙することができて、彼女のカリスマ性を活かせるのは小尻さんのこの踊りくらいカリスマ性のある踊りでないとダメなのだと思った。(もっとはっきり言えば、今のカンパニー内にはまだ本当の意味で井関さんの相手をできるダンサーがいない。)


Noism0は、たぶん師匠のキリアンがNDTを1〜3にしてそれぞれの表現を追求している中の1の活動にインスピレーションを得たのではと想像する。演劇の入れ方とか。年齢を重ねたダンサーならではの表現への問いとか。

結局でも私が惹きつけられたのは現役の身体だった。小尻さんと井関さんの。重ね合うように踊る時にこちらもその呼応の渦に巻き込まれるような圧倒的なデュエット。

照明の枠(たくさんの電球からなっている)の部分が二人のデュエットの時に下まで降りて来て、身体からただただ愛情だけがその光に照らされて昇華するようだった。そこでしかし女は堕胎をし、男は消える。最後の井関さんのテーブルのソロ、細い身体から悲しみが絞り出されるようだった。

動きが直接的に感情に、体に、訴えかけて来るため、ストーリーはあるのだが、その中にいることすら忘れている言語化できるものではない「何か」が直接的にこちらの感情に訴えてくる時の感動の大きさ。ひたすらダンサーの身体から溢れたり絞り出されたりする感情をストレートに受け止めて、共鳴して、震えて、泣いて、自分の人生の中での同様な感情、出来事や人を思い出して...と、感情を舞台に委ねて心がただただ動かされる素晴らしい1時間の体験。「舞踊を見る醍醐味」が詰まった作品。再演を熱望。



by chihiroparis | 2017-04-09 11:40 | ballet+danse

主にバレエ評


by chihiroparis