人気ブログランキング | 話題のタグを見る

年金制度改革で揺れるオペラ座

年金改革反対に関するフランスの大規模スト、オペラ座では12月の上演がゼネストの5日以降ほぼ全てキャンセル。

今回の改革では年金制度のうちrégimes spéciauxと呼ばれる特別制度も改革対象となっていて、これに含まれるオペラ座にも関わる事案となっている。

そもそも退職金制度は37種あり、このうち15が

régimes spéciauxで、オペラ座の年金制度もこの15のうちの一つである。通常退職および年金受給年齢は62才だが、これらの特別年金制度にある人たちはこれより早く退職することができる。その理由は過酷さ(pénibilité)である。例えば警察官や刑務所の監視官は52才、SNCF(国鉄)やRATP(メトロ)は50才(2024年には52才に)。オペラ座は42才(ダンサーの場合)、pénibilitéの他に短期間しかできない仕事であることが理由となっている。
特別制度を一般制度と統合することを政府としては目指しているのだが、今回オペラ座も特別制度において支給される手当(年金)が廃止になろうとしていることから(文化大臣が明言)、12/5のゼネストの日には154名の団員中120名という前代未聞の数の団員がスト参加を表明したというから、今後もどうやら上演中止は長引きそう。体を酷使する職業で42歳定年は避けがたい事実だし、その後の再就職も難しい。
なお、この手当(年金)は約1000€(記事中のカドリーユの場合)。
もう少し詳しい記事がこちら。

受給資格は最低1年のオペラ座における勤務であり、満額を受給するには15年の勤務が必要だとのことである。1800人の受給者に対して1900人の加入者がいる(2017)が、2700万€の運営金(その97%が受給者への支払い)の45%にしかこれら加入者からの積立はなく、52%、1400万€は国持ちだと言うから改革で目をつけられているのだろう。なお、年金を除いたオペラ座への補助金は9500€(2017)である。
これがなくなれば通常の年金受給年齢まで手当はゼロとなり、当然再就職が必要となる。
また、特にエトワール級などは海外ではフランスの3倍の給与はもらえるはずなので人材流出も起こり、現在のオペラ座のレベルを保つのも難しいことになるだろうと記事中インタビューに答えるダンサーは述べている。

若い時にしかできず、しかも怪我のリスクもある過酷なトップアスリート的な仕事だから手当は廃止すべきではないと思う。最近は再就職へのキャリア支援なども少しずつできてきてはいるようだけれども、そちらを充実させることも同時に必要かと。(なお、バレエ学校でバカロレアは取得させている。) 最近は引退後バレエの教職以外の道で活躍する人もいる。日々の鍛錬に耐える自律と努力習慣が染み付いた人たちだからキャリア支援の仕組みがあればいろんなところでまた活躍できる人たちなのではと思う。

追記:ちなみに特別制度は地方のカンパニー(国立のニースやボルドー、トゥールーズ)にはない。パリ・オペラ座がそれだけ歴史的経緯を踏まえ特別な地位を有していると言える。また、文化的機関で他に特別制度があるのはコメディー・フランセーズ。

12/14追記

に少し新しい情報が。他の記事より詳しく年金額が出ている。
額の算出は現役時代の最も収入の多い3年間をもとに行われ、24年勤務した場合のその額はカドリーユの場合で1800€、スジェで2400€、エトワールで3000€出そうだ。
これは、優遇されすぎなのかどうか、と言うことを記事は論じている。彼らのメチエの厳しさ(8歳からの訓練の開始、狭き門による非常に高い選抜性、身体の酷使、など)を述べた後、パリ・オペラ座は確かに恵まれていて業界全体としては非常に不安定な状況であると書いている。
全国で4000人いるプロダンサーのうち安定雇用にある者は500人、多くは市立バレエの所属。リヨン、ニース、トゥールーズ、ボルドー、アヴィニヨン、メッス、ミュルーズ、ほとんどのカンパニーの者は引退後に市町村(劇場が市立であるからそのまま市のお世話になるー例えばコンセルバトワールなどの公的機関と言う意味だろう)では再就職できず、仕事を別で探さねばならない状況にある。つまりむしろ上に揃えて改善していくべきでは、62歳までヌレエフ作品を踊れるわけがないのだから、と言うことで、他の都市のプロダンサーたちの待遇改善を記事では訴えている。
また、オペラ座が他の劇場よりも優遇されるべきという主張もいくつか載せている。NY Timesやリスネールの発言など。フランスが誇る世界トップクラスの芸術レベルなのだから当然だと言う主張である。この年金特別制度を改革すればフランスは芸術的卓越性について取り返しのつかない痛手を負うだろう(リスネール)と。

この主張を指示するかのごとく記事後半は1669年のオペラ座誕生から現在に至る歴史上の重要な出来事を並べている。


by chihiroparis | 2019-12-10 17:32 | ballet+danse

主にバレエ評


by chihiroparis