人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ジャン=ギヨーム・バール版「眠りの森の美女」サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ

ロシアのバレエ団はやたら名前が変わるのでロシア・サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエ(レオニード・ヤコブソンバレエ)とはなんぞや、旧レニングラードバレエか?と一瞬思ったけど違った。旧レニングラードバレエは現ミハイロフスキーバレエで、ロシア・サンクトペテルブルク・アカデミー・バレエは割と新しいカンパニーらしい。
その若いカンパニーに元オペラ座エトワールで古典作品の復興や改訂に積極的な振付家のジャン=ギヨーム・バールが「眠りの森の美女」を振り付けた、とあっては見ないわけには行かない。
バレエの現代化という命題には多くの振付家が挑んでいるけれども、バールがオペラ座に振り付けた「ラ・スルス(泉)」で私は彼のインテリジェンスと審美眼に完全にやられてしまったのだった。エコール・フランセーズ、フランス派とは何か、ということを考え抜いた「ラ・スルス」は、 carré (スクエア)と呼ばれるしっかりした上半身に対して、俊敏かつあくまで繊細でエレガントに動かす足捌き、これをバレエ技術の向上した現代のテンポ(振付の密度)で行うという形での現代化を行ったものだった。
だからバールがロシアのこのバレエ団に眠りを振り付けたと聞いた時に私が想像したのは、そのようなフレンチの速い足捌きが音楽と調和するようなものを想像していた。
しかし彼が古典や他の流派と向き合うやり方はそんなものではなかった。

彼の視線は、ロシア派(とその身体)の真髄や美はどこにあるのか、ということに注がれていた。
言うまでもないがcarré とは対照的に大きく上半身を動かすことで生まれるポールドブラ、体のライン。大きな跳躍。高くあげる足。
これらロシア派の良さを活かすには、プティパ以降、多くの改訂版においてバレエ技術の向上とともに追加されてきた修飾的なものは、またそれも愛すべきものではあるが、彼の目には余計に見えたのかもしれない。

今回の改訂は一見分からないほど地味だ。「引き算の改訂」だからだ。
しかし、余計なことはせず音楽と調和した踊りをすること、このことがいかにロシア派の美を浮かび上がらせることのできるものかということがわかる。あちらこちらでわからないほどにパが引いてあり、無理に音楽に押し込むことで曲芸的になることを避けている。
このことで、結果的にロシア派らしい大きなポールドブラから生まれる空間や、時間をとって大きく行う跳躍が生む弧を描く空間などを楽しませたりしてくれる。
そこには、自分のスタイルを押し付ける改訂を行う振付家のやり方ではなく、ある意味研究者のような視点があった。
ロシア派の様式美とは何か。身体美とは何か。その真髄を見出すこと。
現代では少し時代遅れになった修飾物を取り払って、流派の持つ美しさを出来るだけそのまま取り出すこと。
とにかく地味な改訂で、結果的にオーソドックスな版になったという印象を一見抱くだろう。
また、小さめのカンパニーで、コールドも多くない。眠りの華やかな舞台を見たい人にはどうかなとは思うけれども、私はとにかくおすすめしたい。衣装もとても素敵だ。森の茶や緑と調和した渋い薄緑の衣装は特に美しかった。

全体的にゆっくりと、たおやかなこの感じ、何かを見た時の印象と似てる...とら思ったらキューババレエが守り続けている古き良きヨーロピアンスタイルのジゼルでした。

by chihiroparis | 2019-12-21 21:58 | ballet+danse

主にバレエ評


by chihiroparis